性別不合診療の保険適用化に関する活動

 2007年に国際連合人権理事会に承認されたジョグジャカルタ原則の流れを受け,2010年,欧州評議会閣僚委員会は,「性的指向,または,性自認を理由とした差別と闘うための措置に関する加盟国への勧告」を採択しました.その第35条では,加盟国は,性同一性障害当事者における精神療法,ホルモン療法,手術療法などの総合的診療へのアクセスを保障するために,適切な措置を講じなければならないとし,第36条では,性同一性障害におけるホルモン療法や手術療法などの性別適合に関する治療に対して,客観的に見てバランスがとれた形で医療保険を適用するための措置を講じなければならないとしました.
 日本においても,市民への調査(852名,2009~2010年)では,健康保険を適用すべき性同一性障害治療として「手術療法」は68.1%であり,「ホルモン療法」は74.5%とさらに高率でした.
GID学会は,2009年に初めて,厚生労働大臣へ「FTM当事者に対する子宮・卵巣摘出術」に対する保険適用の要望書を提出しています.それ以降も,GID学会,日本精神神経学会,日本産科婦人科学会,日本泌尿器科学会,日本形成外科学会の5学会は,厚生労働大臣へ「性同一性障害に対する手術療法やホルモン療法」に対する保険適用の要望書を提出しています.
 さらに,安全で有効な性同一性障害診療を目指して,GID学会が認定医制度を設け,専門的知識や技術を持つ医師の養成を開始したこともあり,2018年度の診療報酬改定において,認定医の在籍する認定施設において,性同一性障害に対する手術療法への保険適用が認められました.しかし,ホルモン療法は,依然として自費診療のままです.
 性別適合手術を希望する性同一性障害(性別不合)当事者の多くは,通常,ホルモン療法開始後に望む性での生活(RLE)を行うという準備期間を経て,性別適合手術を受けます.このため,適切な診療を行っている施設では,同じ「性同一性障害」という病名に対して,一連の治療としてホルモン療法と手術療法が行われることになります.しかし,ホルモン療法が自費診療のままであるため,「混合診療」の観点から手術療法が保険適用とならない状況が続いています.
 トランスジェンダーに関連する法律と医療を考える会(プロジェクトTGD)では,ホルモン療法の保険適用の実現に向けて活動します.