企業に向けての活動と,経営者の方々へのお願い

 2017年より改正セクハラ指針で「被害を受ける者の性的指向や性自認に関わらず,性的な言動であれば該当する」「同性に対する物も含まれる」とされ,性的マイノリティ,LGBTQ+に関連する差別や嫌がらせもセクハラ指針の対象となる旨が明確化されました.また,2020年,改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行され,性的指向や性自認に関するハラスメント(SOGIハラ)や性的指向や性自認について本人の同意なく他者に開示するアウティングの防止が企業に義務付けられています.
 これに伴い,近年,就労環境におけるダイバーシティとインクルージョンの推進が叫ばれ,「性の多様性」を理解し,すべての職員が働きやすい職場へと変わろうとしている企業 も増えています.
しかし,性同一性障害(性別不合)当事者を含むトランスジェンダー当事者や性別にとらわれない意識を持つジェンダー・ダイバースな人々(TGD: Transgender and gender diverse individuals)にとっては,就労の場において,トイレや更衣室,制服,健康診断,また,就職活動時のエントリーシートの性別欄や写真の貼付,リクルートスーツなど,多くの課題が存在しており,その多くが改善されないままになっています.
 企業においては,労働衛生に関する基本方針や計画,体制づくりの中にLGBTQ+関連の課題への対応が反映されているかを確認する必要があります.トイレや更衣室への配慮はできているか,ホルモン療法での定期的な通院や性別適合手術のための入院の時に休暇制度が適切に運用されているかなどの具体的な施設や規則の整備状況の再確認は重要です.また,産業医等は,医療的視点でも,SOGIハラの状況やLGBTQ+当事者のメンタルヘルスの状況を把握し,ホルモン療法や手術療法を受けているトランスジェンダー当事者の健康に影響する作業環境などに留意することが必要です.
 トランスジェンダーに関連する法律と医療を考える会(プロジェクトTGD)は,性同一性障害(性別不合)当事者を含むトランスジェンダー当事者や性別にとらわれない意識を持つジェンダー・ダイバースな人々(TGD: Transgender and gender diverse individuals),さらには,性的マイノリティ,LGBTQ+当事者が働きやすい就労環境を目指した活動を行っています.

 企業の経営者の方々においては,自社内におけるダイバーシティとインクルージョンの推進,SOGIハラ防止の啓発,相談窓口の設置や相談員の知識習得などを進めていただくようお願いします.また,トランスジェンダー当事者や性別にとらわれない意識を持つジェンダー・ダイバースな人々(TGD: Transgender and gender diverse individuals)が抱える種々の社会的課題,特に,「性同一性障害特例法の課題への理解」「性同一性障害(性別不合)当事者が適切な医療を受けられる環境づくり」などについても,ぜひ,ご理解いただき,その解決にご協力いただければ幸いです.

【資料】
◆厚生労働省:職場におけるダイバーシティ推進事業について.2020年.
厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業
◆報告書
◆多様な人材が活躍できる職場環境に関する企業の事例集
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/0000088194_00001.html